像を見る電子。

今日は朝早くから電話ラッシュ。

お仕事まわり、関係各所からのコールが止まらない。

なんともにぎやかなものだ。

 

お仕事の作業が一段落したら、ひとつ作業を用意してくる。

昔、Commodore Amiga という忘れられたコンピュータにて、動画をいじっていたころに、近所の骨董屋で入手した、National製の古いカラービデオカメラを取り出してきた。

 

VHS-Cのレコーダに接続して録画するタイプのビデオカメラユニットである。

半導体撮像素子すら生まれていない時代の物理の産物。

撮像管時代のものである。

当時(10年以上前)はこれで撮影した動画素材を、NEC PV-S98 COMBOY にて取り込み、Amiga A4000上の Video toaster と Scala MM400 という拡張ボードおよびオーサリングソフトウェアで編集し、映像制作のいろはを学ぶ…ということをやっていた。

 

 

早速電源を入れてみるものの、まず映像が出ない。

電子ビューファインダーユニットも所有しているので、接続するも、横線が出るだけの通称「横一」状態。

とりあえず、ビューファインダーを直す。

 

分解した電子ビューファインダーユニット。

 

横一状態になったCRT(ブラウン管)の故障原因はおおよそ予想がついている。

経験上、このようになったCRT制御基板は垂直走査回路の不良、それもはんだまわりの不良が多いと知っている。

垂直走査回路は大体が汎用のアンプICを利用しており、電気的にはかなりタフな設計になっていることが多いから、半導体回りの故障はあまり遭遇しない。

 

電子ビューファインダ基板上の液モレ。

 

あぁ、やっぱり。

いくつかのパーツを取っ払って見てみると、基板上の電解コンデンサが液漏れしている。

漏れた電解液がリードを伝って基板上に流れだし、リードとパッドを腐食している。

見た目では断線しているように見えないものの、導通試験をするとやはり断線していた。

液漏れが原因の基板へのダメージは、"見た目では分からない"から厄介なのだ。

明らかに腐食しているところはダメだと判断がつくが、蒸気にさらされたその周囲もやられている場合が多い。

 

 

さて。

電解液で腐食したパッドにはもうはんだがのらない。

そのため、電解コンデンサを交換した後は、基板から飛び出ているリードと、近所の本来結線されているパッドをジャンパでつなぐという措置をとる。

4か所ほどジャンパを飛ばす。

 

ジャンパして修理。

 

さて、この状態で電源を投入し、オシロスコープで偏向ヨークのワイヤをプロービングする。

組みなおす前に波形を確認しておかないと、貴重で変えの効かないCRTを破壊する可能性があるから

うん、しっかりと垂直走査の鋸歯状波が確認できた。よしよし。

 

 

電子ビューファインダ修理完了。

 

CRTを接続して動作確認。

うん、ちゃんと像が出ている。

 

次に、ビデオカメラ本体の修理に取り掛かる。

 

 

症状は、ビデオ信号が出力されないこと、ビューファインダーに映る像がやたら白いこと、である。

電子ビューファインダに像が映っている以上、撮像管が壊れていることは無いと判断。(劣化はあるかもしれないけど)

 

分解したカラービデオカメラ CZ-C600。

 

とりあえずビデオ信号の復活を試みる。

パターンをたどっていくと、いくつかのはんだクラックと、半固定抵抗のオープン故障を発見した。

それぞれジャンパと部品交換で対処。

この時点で、映像信号は復活した。

 

COMBOYに映像を送り、Windows PCのフォトアプリ上にオーバーレイしてみる。

うーん、やっぱり白い…。

あと、色がない。

さらに調査を進める。

 

うつくしい撮像管。

 

完全にバラバラにする。

これはこの時代のビデオカメラのコアとなる撮像管。

簡単に言えば、ブラウン管の逆の動作をするもの。

像面にレンズで集光し結像した像を当て、その状態で電子ビームを偏向ヨークの磁力で走査し、電子ビームと光電変換面 (ターゲット電極) の間に流れる電流の変化を読み取ることで画像を電気信号に変換する。

 

信号を読み取る部分は撮像管の下のシールドボックスに格納されている。

入射する光の変化に対するターゲット電圧の変化は非常に小さい。

アンプでかなりの倍率に増幅するため、ノイズがのってしまっては映像が乱れてしまうから、ノイズにはかなり配慮されているのだ。

 

撮像管前のローパスフィルタ。

 

像が白くなる原因はこれ。

撮像管の前に配置されている赤外線除去用のローパスフィルタ、つまりNFガラスフィルタが、白く曇ってしまっている。

現代でもカメラに使用されているこのローパスフィルタ。

素材はフツリン酸塩ガラスというもので、経年劣化と加水により表面にフッ素塩系の結晶が積り、表面を曇らせてしまう。

 

 

対処はレンズの曇り修理と同じく、とにかく研磨。

研磨剤は2000番からはじめ、3000番, 4000番…と進めていく。

非常に忍耐と根気の要る作業。

油断すると、表面の形状が変わってしまい、結像に悪影響が出かねない。

 

研磨作業中のローパスフィルタ。

 

研磨後のローパスフィルタ。

 

1時間ほど磨き続けた。

表面の白色層は消え去り、輝きを取り戻した。

 

組みなおす。

ほぼすべて分解したので、戻すのにも時間がかかる。

 

 

 

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